「はぁ」








さっきから何度目の溜息だろう。
今日はクリスマスイブ。
街は色とりどりのライトに照らされて
いつもより明るく、そしてどこか神秘的だった。
道行く人はカップルばかり。
幸せそうにしやがって・・・!!
心の中で少しばかり毒を吐いてみる。
そんなことしたってこの気持ちは変わらないのだけど。






「はぁ」






出るのは溜息ばかり。


1週間ぐらい前に彼氏と別れた。
別にたいして好きでもなかったし、告られたからただなんとなく付き合っただけなんだけど。
「他に好きな人ができた」とか言ってフラれた。
どうせならこっちからフってやればよかった。
アンタみたいな男こっちから願い下げだ・って。
未練は全くと言っていいほどないのだけれど
あえて言うならそれが悔しくて仕方がない。
人はそれを未練と呼ぶのかもしれないけれど。
少なくとも私にはそのつもりはなかった。
けれどもその出来事は確実に今の私をイラつかせている原因でもあった。
さすがにこのイルミネーションの中1人身はキツイ。
意味もなく、本当に意味はないのだけど
なぜかそれは私の心を切なくさせる。


・・・馬鹿みたい。


また 溜息。




冷たい空気に混じって
たった今吐いたばかりの息が一瞬白くなってすぐに消える。

「寒い・・・」

私は口の辺りまで顔をマフラーにうずめた。
長居は無用だ。
バイトも終わったんだし早く帰ろう。
私はさっきよりも少し早足で歩き出した。



「アレ――――??」

聞き覚えのある声に名前を呼ばれ、顔を上げた。
「御柳・・・」
御柳は手をヒラヒラ振ってこっちに近づいてき
「よっ」と言って笑った。
「バイト帰り?」
御柳が尋ねる。
どうしてコイツはこんなにも寒くなさそうにしていられるのだろうか。
やっぱり部活で鍛えている体は違うのか?
なんて頭の中で考えながら私は「そう」と短く答えた。
「なんでアンタがこんなトコにいんのよ」
「なんか機嫌悪ぃでやんの」
フザケたように御柳が言った。
「質問してるんですけど」
あぁ寒い!イライラする!
なんて御柳に当たっても仕方ないんだけどさ。
こんな自分に1番腹が立つ。
そんな私の気持ちとは裏腹に御柳は
に会えるような気がして出てきたー」
とおどけて言ってみせた。
私は馬鹿じゃないの、と言って眉間にシワを寄せる。
「だいたいアンタ彼女いんじゃないの」
御柳はほんの少し驚いたように目を開き、それから意味ありげに笑った。

「な――るほどね」
「・・・何よ」

私はさらに眉間のシワを深くする。

「だから機嫌悪いんだ。1人身のチャン」
御柳がからかうように言ってノドの奥でクッと笑った。
「・・バカ」
「仕方ないなー。芭唐サンが可哀想なチャンのために遊んであげましょう!!」
「・・・は?」
御柳の言葉を理解するのには多少の時間がかかった。
「そうと決まればレッツゴーだ!!」
御柳は私の腕を掴むと人ごみの中へを歩き出した。
私も御柳にひっぱられるようにして歩く。
「ちょ・・ちょっと待ってよ」
なんでアンタなんかと遊ばなきゃなんないんだ。
私は早く帰りたかったのに。
けれども御柳は聞く耳を持たない。
「ちょっと!アンタ彼女いるんじゃないの?」
私がそう言うとやっと御柳はこっちを向いた。

「誰がいつ肯定した?」

そう言って面白そうに笑って。
が勝手にそう思っただけっしょ?」
・・・コノヤロウ。




やっと腕を離してもらえたのはゲーセンの前。
「何が悲しくてクリスマスにゲーセンに・・」
そんな私の言葉が聞こえなかったのか
それとも聞こえたけれど無視したのかはわからないが
御柳が何も言わず店内に入っていったのでとりあえず私もついて行った。
御柳は巧みにUFOキャッチャーのクレーンを操る。

「ねぇ、なんでゲーセンなのよ」
私はもう1度尋ねた。
「ゴチャゴチャ言ってねーで。ホラよ」
そう言って御柳が何かをポンと放り投げたので反射的にキャッチしてしまった。
「・・え?」
「お前にやる」
御柳がぶっきらぼうに言った。
私の手の中にあるのはプーさんのかわいらしい人形。
「・・もらっていいの?」
「・・ったりめぇだろ」
俺がもらってどうすんだよ、と御柳が言った。
私の瞳がパッと輝く。
プーさんは大好きだ。
「お前、カバンにプーさんのキーホルダーつけてたっしょ?」
あぁ、それでか。
私は変に納得して頷いた。
「ありがとね、御柳」
私がそう言うと御柳は「ったく現金なヤツだな」と言って笑った。













「わ―――!!もうこんな時間だ――!!」
外は少し、肌寒かった。
でもそれがまた熱気で温まった体には心地良く感じられた。
「お前、声デカすぎ。近所迷惑だろ」
時間考えろよ、と御柳が言った。
コイツでもこんなこと考えるのか。
人の迷惑とか気にしないヤツだと思ってたのに。


街の真ん中にはツリーが光っている。
ほんの数時間前までは私をイラつかせていたはずのイルミネーションは今では私を幻想的な世界へと導いてくれる。
憂鬱な日だったハズなのに。
御柳のおかげで楽しいよ。






「なァ」



横を歩いていた御柳が急に立ち止まったから私も足を止めた。













「俺ら、付き合ったらうまくいくと思わねェ?」












御柳が笑った。






だから私も笑ってみせた。













「――――そうだね」



















そして私たちはどちらからともなく唇を重ねた。





















「メリー・クリスマス」




















街が 光っている。



私たちは顔を見合わせて笑った。








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