「…あれ?」
「ん?どした?」
はカバンの中をガサガサと漁っているへと視線を向けた。
はカバンからの方へと顔をあげると困ったよう呟いた。
「ケータイないんだけど…」

























あかくろあか

























それを聞いたは呆れたように溜息をついた。
「もー…何やってんのよ…更衣室に置いてるんじゃない?」
は首をかしげた後カバンをその場に置くとちょっと見てくるねと言う台詞を残して元来た方へと走っていった。
パタパタと走っていくの背中に今日塾あるから早く帰りたいのになぁ…とは呟いた。



「どーだった?」
はこちらへ向かって走ってくるの姿を確認するとそう尋ねた。
「なかった…」
走ってきたせいだろうか少し息を切らせながらが言う。
は眉間にシワをよせた。
「どうすんのよ…」
「教室かなぁ…」
が困ったように首をかしげた。
「あたし今日塾だからゴメンだけど先帰るよ?」
が呆れたようにそう言うとはえーっ!薄情者!と言ってのカバンを掴んだ。
はすでに帰ろうと校門の方へ向けていた体をクルっとのほうへ向けると再度溜息をついた。
「アホか!だいたいアンタが忘れてくるから悪いんでしょ。
ってことで帰るね〜頑張って探してちょ」
そう言ってひらひらと手を振るとは軽やかに校門のほうに歩いていってしまった。




「今日行かなきゃ明日明後日と学校休みだからなぁ…」
そんなの背中を見送りながらは誰に言うわけでもなく小さく呟いた。
いくら夏といえども日が沈んでしまえば辺りは真っ暗だ。
野球部の練習は他の部活よりも長いものでこの時点でもう既に時計の針は8時を通りすぎていた。
(ひとりで行くのすっごい怖いんですけど…)
どうしたもんかなぁ…とひとり途方に暮れてみるがどうしようもない。
現役の高校生が3日間もケータイなしで生きていくのは不可能だ。と勝手に理由づけては頷く。
取りに行く、と決まったは良いのだがどうやってあの暗い廊下を歩こうか。それが問題であった。
普段は暗いところを歩く時、ケータイのスポットライトを使うのだが生憎本体がないのでどうしようもない。
やっぱりケータイがないと不便だなぁとは再び認識するのであった。




野球グラウンドからとぼとぼ校舎のほうに歩き出しただったが急に何かを思い出したように再び体の向きをかえた。
向かった先は部室である。
すると間もなく前から背の高い少年がダルそうに歩いてきた。
「あー!御柳!ちょうどいいところにっっ!」
が声をかけると御柳、と呼ばれた少年はそちらに顔をあげた。
器用にガムがフーセン状に膨らまされている。
「あのさっ教室ついてきてくれない?」
が顔の前でパンと両手を合わせた。
「はぁ?んでだよ」
ガムを噛みながら御柳が言う。
「ケータイ教室に忘れてきちゃったっぽくてさぁっ校内真っ暗だから怖いんだよねー」
だからついてきてほしいんだけどっがそう言うと御柳はめんどくせぇと呟いた。
それを聞いたは諦めたようにんじゃスミィについてきてもらおうと独り言のように言って再び部室の方へ歩き出した。
「ちょっと待て」
御柳の声に反応しては素直に足を止めた。
「…何よ」
振り返ると御柳がめんどくせぇけどついていってやるよと言ったもんだからはありがとう!さすが御柳!と嬉しそうに笑った。




「失礼しまーす」
そーっと職員室のドアを開けると電気はついているものの誰もいない。
は教室の鍵を取ると素早く職員室を出た。
ドアの前で待っていた御柳に誰もいなかったと告げると御柳は無用心だなぁと呟いた。
「ほれ行くぞ」
歩き出す御柳の後にも小走りでついていった。





「つーかマジ暗いし!」
本当に灯ひとつないんだから困ったもんだ。
2人を照らすのは月の灯と廊下のところどころにある非常用サイレンの赤い色だけであった。
そのせいか、それとももともとどんくさいとまわりに言われるせいなのかは何度も階段を踏み外しそうになった。
「ほんとうにコケそう…うわぁっ!」
言った傍から転びそうになるの腕を御柳が掴んだ。
「危なっかしいな。ったく」
暗くて御柳の表情は読めない。
は困ったように笑ってありがとうと言った。
「ほんとひとりじゃなくて良かった」
こんな暗いところひとりじゃ怖くて歩けないよ。とは繋がれた御柳の大きな手を確かめるようにギュっと握った。
「言っとくけどお前だからついて来てやったんだぜ?」
ふいに握られた手がはなれては困惑した。
「えっ…それってどういう…」
が最後まで言い終えることができなかったのは御柳の唇がの唇をふさいだからであった。
がワケがわからずつっ立っているとガチャと鍵の空く音がし、あたりが急に明るくなった。
今まで真っ暗の中を歩いてきたためその眩しさには思わず目を細める。
「はい。取ってこいよ」
電気のついた教室はいつも通りだったが窓の外が暗いせいと普段は騒がしい声が聞こえないせいでどことなく寂しかった。


「大好きだよ」


ふいにがそう呟いた。
唖然とする御柳に背を向けるとは自分の机の方に歩き出した。
そしてケータイがあることを確認するとそれを取り出し、安心したように溜息をついた。
…にしても今の自分の顔は赤いに違いない。
電気を消してから言うべきだったかなぁ。そう思いつつドア付近にいる御柳の方を振り向くと御柳はすばやく教室の電気を消した。
「俺も、好き」
そう言っての方へ近づくともう1度、今度はさっきより深く口付けた。
御柳の顔は非常用サイレンの赤い色に照らされて表情はよくわからなかった。
自分だけ電気消して暗くして言いやがって。ずるいなぁ。はそう思いつつもギュっと御柳を抱きしめた。
夏休みを間近に迎える日の話であった。





(2004.6.20 ケータイを教室に忘れたのは実話だがこんな素敵な出来事は起こる気配もなかった)
こっそりフリー夢です。報告等特に必要ないのでどうぞご自由にお持ち帰りしてやってください。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送