#03 returned to the sea






芭唐はひとりいつもの場所に座っていた。
潮風が彼の髪を揺らす。
波のリズムはいつもと同じ。
月がいつもよりも明るく輝いていた。


「…やっぱり来ねェか」


芭唐は溜息をついた。
芭唐の、会いたい人はいつまで経っても現れなかった。
やっぱり…なぁ・芭唐は小さく溜息をつく。
そしてポケットから銀色の指輪を取り出した。
もし、今日が現れたら渡そうと思っていたものだった。
それを掌に握ってギュっと力を込めた。


芭唐は立ち上がり月と海を交互に見た。
月は紫っぽい光を放ちながら輝き、海はその光を受けて紫色にキラキラ輝いていた。
果てしなく深く、底が見えない。
芭唐は目を凝らした。


「そうか、お前は…」


芭唐は寂しそうに笑った。
そしてその手に握っていた銀色の小さな塊を今度はいつも野球ボールを投げる時のフォームでできるだけ遠くに投げた。
芭唐の手を離れた指輪はすぐに暗闇に飲み込まれてしまってどのへんに落ちたのかもわからなくなってしまった。
それでも、芭唐は満足そうに微笑んだ。


!聞こえるか?俺からの餞別!ちゃんと受け取れよ!」


海の底で月の光を浴びて光る銀色の塊が芭唐には見えたような気がした。
が笑った、ような気が、した。


、お前は海に帰ったんだよな。
最初からなんとなくわかってた。お前が寂しそうに笑う理由も。

俺の、自惚れかもしれないけど、だけど、お前も俺のこと、好きでいてくれただろ?
好きだったよ。本当に。


海は静かに波打っていた。
芭唐は海に背を向けると歩き出した。



ありがとう芭唐。愛してたよ。


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