「昨日土方さんの彼女に会いましたぜ」





















イデンティティ・ーム
























「何のことだ」


土方は目線は書類に向けたままで問うた。



「嫌だなァ。とぼけないでくだせェよ。もう忘れたんですかィ?歳だなァ土方さんも」


「一言多いな」


土方は書類から目を離し、自分から少しだけ離れて立っている沖田のほうを見上げた。


「綺麗な人ですねェ」


「…何が言いたい」


「そんな睨みつけねェでくだせぇや。恐ろしい。瞳孔開いてますぜ」


あ、そういやいつも開いてましたよね。とワザと沖田が付け足すと土方は先ほど火をつけたばかりの煙草を口に咥えた。


「要約するとですねェ、土方さんにあの人は勿体無いってことですよ」


いつもの調子で沖田が言うと土方がガタンと音を立てて椅子から立ち上がった。


「ハン、馬鹿言え」


そう言って沖田の横を通り過ぎ、部屋を出て行ってしまった。


「あれぇ?」


思ったよりムキにならないじゃないですか、つまんねェなァ。沖田は首をかしげ、そう呟いた。





























「あ!沖田さん!」


どうせ何も事件なんて怒らないしダルいからサボってやろうと思っていた市中見回りをサボらなくて良かったと沖田は思った。
声をかけてきたのは他でもない、土方の彼女だった。


「あ…えっと…」


沖田が返答に困っていると女は思い出したように言った。


「名前、まだ言ってませんでしたよね。といいます」


…さん」


沖田がそう言うとでいいですよ、とが言った。
沖田は黙って頷いた。





切ない、恋だと思った。























「お前、総悟と会ったんだって?」


「え?」


が聞き返すと総悟のやつが今日言ってやがった。と土方が返した。


「今日も偶然会ったよ。沖田さんは市中見回り中だったみたい」


がそう言うと土方は短くへぇ。とだけ返した。





















「以上だ」


近藤の声が響き渡った。
真選組屯所は心なしかシンとしている。
土方は自分の心を落ち着かせるために何度か深呼吸をした。


「どうするんですかィ」


自分はこんなにも隙があったのか、いつの間にか隣にいた沖田が口を開いた。


「…何がだ」


土方は動揺を隠すように至って冷静に返した。
そんな土方を見て沖田はやれやれと言うように溜息をついた。


のことに決まってまさァ」


土方はちらりと沖田を見ただけで何も言わずに去ってしまった。
流石の土方さんでも慌てる時があるんですねぇ、沖田は呟いた。
















土方の灰皿はいつも以上に捨てがらでいっぱいになっていた。
それでもこの気持ちを落ち着けるには煙草を吸うしかない、
いや何かしていないと落ち着かなくてそれでも何もできなくて自然と煙草に手がいってしまうのだ。
土方はもはや何本目かわからない煙草を取り出し再び火をつけた。

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