言えば、いいんだ。
土方さんはアンタを置いて京へ行っちゃうんだ。って。
でも、なぜだろう。
声にならないんだ。






















イデンティティ・ーミリィ





























「…沖田さん?」


綾香が心配そうに沖田の顔を覗き込んだ。
あぁ、何をボーっとしているんだ。俺は。らしくない。











































「俺が、京に行ったらのこと頼む」


沖田は縁側に座ったまま振り向かずに言った。


「…どういうことですかィ」


土方は相変わらず襖に寄りかかり煙草を咥えていた。


「どういうことも何もそのまんまの意味だ。オメーものこと気に入ってるみてェだし丁度いいだろ」


次の瞬間キィンという金属音がして床にまだ吸い始めたばかりの煙草が落ちた。














「物騒だな、オイ」


沖田の刀を受け止めたのは土方の刀だった。
沖田が刀を鞘に戻したのを確認すると土方も同じくそうした。


「…何のつもりだ」


土方が少し怒ったような低い声で言った。
沖田が馬鹿にしたような笑みを浮かべる。


「何のつもりだ、ですって?そいつァ俺のセリフですぜ」


少し間を空けたあと沖田が続けた。


「京へ行くって、それでのこと放って、心配させて、それで俺に全部任せるですって?いい加減にしてくだせェ…!」


最後の方は掠れた、震える声だった。


「勝手すぎますぜ土方さん。…は俺がもらいまさァ」


沖田がスッと刀を抜いて土方の目の前に突きつけた。
土方は動じることもなくその場に立っている。
月に照らされたその刀は妖美に輝いていた。


「俺がまだ試衛館にいた時、稽古をつけてもらった。それが土方さんと最後に剣を交えた日だろィ?」


月は満月で、あまりにも美しく輝きすぎていた。
沖田の金色の髪の毛もまたその光を受け輝いていた。
まるでこの場所だけ時間が止まっているようだった。








「…わかった。それがお前の武士道なら俺も自分の道を突き通すことにしよう」


土方もゆっくり自分の刀を抜いた。
沖田が怪しげな笑みをみせた。


「ずっと、殺り合いたかったんだ。きっと。アンタと」








あなたを尊敬していたんだ。心の奥で。本当は。
が、あなたと一緒にいるときのは、本当に幸せそうだったから。
壊してでも手に入れてたんだ。今までは。
でも、それができなかった。
の本当に悲しそうな顔を見てしまったから。
まるで金縛りにあったみたいに、動くことができなかった、声を出すことができなかったんだ。
ねェ、わかりますか、土方さん。


俺はあなたならをいつも笑顔にできる、幸せにできると思ってたんだ。



それなのに、あなたは

















「容赦はしませんぜ」


「当たりめェだ。殺すつもりで来い」














キィンと言う音がして充分に間合いのあった二人の間は一瞬にして埋まってしまった。
沖田は真選組の中でも1番の剣の使い手だった。
そんなことは土方も承知だったのだ。
寧ろ沖田の実力は土方が1番よく知っていたのかもしれない。
それでも土方は勝負を受けたのだった。








何を考えていたんだ俺は。
自分のことに必死で周りが見えていなかったのかもしれない。
だからこそ、俺は剣を抜いたんだ。
これは命と、それよりももっと複雑な感情を賭けた真剣勝負だ。
そうだろ?総悟。







隊員はみんな寝静まったであろう屯所の中でふたりの剣の交じり合う金属音だけが響いた。


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