「どうした?」

ふいに抱きついてきたの髪をなでながら聞いた。
ふわり、桜のようないい香りがする。
シャンプーの香りだろうか。

背の低いは俺の胸に顔をうずめていた。
何かに、怯えるように。

「どうした?」

さっきと同じ質問をもう一度口にしての顔をのぞきこむ。

「あのね」

不安そうな顔をしたがようやく口をひらく。
俺は黙って続きを促した。

「トシがいなくなっちゃう夢みたの」

一瞬きょとんとしたが、すぐに小さな笑いが漏れた。
それを見たは「何がおかしいの」とでも言いたげに少しむっとした表情をした。

「バカヤロー」

もう一度つよくを抱き寄せる。

「俺はどこにも行かねェよ。ずっとそばにいる」

むしろ俺がお前から離れられねェよ。
そう思いながら愛らしい唇にそっと口づけた。

の頬が桜色に染まるのを俺は見逃さなかった。
季節は、もう春だ。


(さくらも、もう散っちゃったなぁ。2010.4.20)


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