僕らの街は茜色。












「これで今日の練習は終わりだ。解散」

「ありっしたっっ!」
剣道部の練習が終わった。 ぞろぞろと部室に戻り汗くさい防具を脱ぎ捨てる。 空は茜色へと変わっていた。
「もう秋になるってのにまだまだ暑いですねィ」
沖田が少しイラついたように言った。
「こんな暑い日には何か冷たいものが食いてェや。そこで俺に良い考えがありまさァ」
土方は沖田をチラリと見た。こういう時、コイツはロクなこと言わねェんだ。土方はもう既に着替え終わっており、ちょうど鞄を持ち上げたところだった。
「アイスでいいですぜ」
「何の話だ」
予感的中だ。沖田の言葉に土方は間髪をいれずに返した。
「みんなァァァ部長がアイスおごってくれるって言ってますぜ!」
「言ってねェェェ!」
「土方さん、男はそんなケチくせぇこと言ってちゃいけませんぜ」
沖田はやれやれというように溜息をついた。
「余計なお世話だ!」
ぼちぼち着替え終わった一同は校門までの道をサッカー部がグラウンドの整備をしているのを横目にぞろぞろと連なって歩いていた。
「ねー土方さん」
「うるせェ」
「…ケチケチ土方さん」
「うるせェェェ!」
「そんなんじゃ女の子にモテやせんぜ」
沖田がそう言い終わった直後に「トシぃー」というかわいらしい声がした。
「…
土方に近づいてきた少女は大きな目いっぱいに涙を溜め、今にも泣き出しそうだった。土方は困ったように笑っての髪の毛をくしゃりと撫でた。
「悪ィ。お前ら先帰っててくれ」
土方はそう言うとの肩を抱いてくるりと向きをかえてしまった。
「お疲れっした!」
その背中に次々に後輩の声が投げ掛けられた。土方は一度みんなのほうを振り向いて「おぅ」とだけ言うとに何か話しかけて今度はの手をひいて歩き出した。は俯きながらあいているもう片方の手で目の辺りを拭っていた。
「部長の彼女ですかねぇ」
沖田の目は茜色に染まった山崎の横顔を捕らえた。山崎の視線はやはり茜色に包まれたふたりの背中に向けられていた。沖田はすぅと息を吸い込んだ。
「ケチな土方さんさよーならー!!」
すると土方が顔だけそちらへ向けて「黙れェェェ!」と叫んだ。満足そうに笑う沖田の隣で山崎はただ苦笑するしかなかった。そうしてふたりも校門へのあと僅かな道をやっと歩き出した。土方達の背中はもう見えなかった。
「…にしても部長にあんなかわいい彼女がいるなんて…」
山崎が羨ましいのかそれとも信じられないというような気持ちなのか多分両方の意味を込めて言った。
「…ケチなくせにねィ」
沖田が言うと山崎は苦笑した。茜色が街を包んでいた。









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