(サワークリームとブランデー)




「えー!」
桜木くんが大声を出すもんだからわたしは思わず口の前にひとさしゆびをもってきた。静かにしろ、の合図だ。
「聞こえるから!ね」
気づかれないように首は動かさずに目だけをぎょろりと動かして三井を見る。 桜木くんも三井を見ていた(もっとも彼は睨みつける、という感じだったが)
「でもマジありえないっすよ!先輩みたいなひとの気持ちを無下にするなんて!」
わたしは苦笑いをした。 あのときの気持ちがまたあふれだして頭の中や胸の奥、からだじゅうをぐるぐる駆けめぐって気持ちわるい。
「よーし、ここはひとつ桜木花道がドカンと一発…!」
そう言って桜木くんは三井の方にむかってずんずんと歩きだしたので慌ててそれを止めた。 桜木くんは不服そうにこちらを見る。
「なんかさ、もうどうしようもないよね」
「でもまだ何も聞いてないんすよね?」
あとに続くことばはフられたわけでもないじゃないすか!だ。確かにそうだ。フられたわけでもないけど彼は何も言わなかったのだ。ひとが勇気を出して告白したってのに間の抜けた表情で「は?」って言いやがった。あぁもう思い出しただけでも腹が立つ…!と同時にやっぱり落ち込んでしまい溜息をつく。そんな自分が馬鹿みたいだ、と心のなかで嘲った。桜木くんが不安そうにこっちを見ているのに気がつくとわたしは笑った。桜木くんは優しいから好きだ。
「大丈夫だよ」
そう言うと桜木くんは困ったように笑った。 もしかしたらわたしは上手に笑えてなかったのかもしれない。(あ、また外した。今日は3P不調だなぁ)わたしの視界のはじっこにはやっぱり三井が映っていた(ちくしょう!くやしい!)



「おい」
帰ろうとしていたらいきなり三井に声をかけられた(びっくりした)空はもう薄暗くなっていて気の早い星たちが瞬きはじめていた。 三井は学ランを着ていてスポーツバッグを肩にかけていた。 わたしは自分の着ているすこしのびたベージュのセーターの袖口をぎゅっと握った。
「…家まで送る」
三井が歩き出したからわたしは慌ててその背中を追った(条件反射ってやつだ)


(…なんでこんなことになってんだろ)
わたしは隣を歩く三井をちらりと盗み見て思った。気まずい。というかなんか空気が重い。何か喋ろうと思って口を開くのだが音にはならず、出てくるのは空気だけだった。三井はどういうつもりでわたしの隣を歩いてるんだろう。三井の考えてること、全然わかんない。わたしはふいに泣きそうになってしまった。
「なんで桜木とあんな仲良さ気に喋ってんだよ」
ほんとうに突然だ。ぶっきらぼうに三井が言った。ちいさな声で呟くようにして言ったのでわたしは聞き取るのが精一杯だった、ような気がしたけどほんとうは三井の言ったことばはしっかり聞き取れていた。それはきっと神経が研ぎ澄まされていたから?
「は?(意味わかんない!)」
「だーかーらー俺のこと好きつったくせになんで桜木と仲良くしてんだよ」
あんたに関係ないじゃん!そう言いたかったけど言えなかった。だってそれは三井のことが好きだと言ったわたしにとってただの意地っ張りでしかないとわかってたから。しかたなく横にいる三井を見上げたら(三井は背が高いのでどうしても見上げるかたちになってしまう)三井は右の掌で顔を覆っていた。でもわたしはうっかり三井の耳が赤いことに気がついてしまった。
「あー!もう何とか言えよ!」
三井はそう言って足を止めて赤い顔のままこっちを向いた。
「え、そんなこと言われてもわけわかんないし!」
「好きだって言ってんだよ!が!」
言ってんだよ、ってそんなこと一度も言ってないじゃないか。初耳だ。心のなかでそんなことを考えたわたしは結構余裕だったのかもしれない。でもやっぱりわたしもいっぱいいっぱいだったんだと思う。だってどうしようもなく顔があついんだ。




(05.04.05 なんかはなしがまとまりません。素直になれないミッチーを書きたかったんだっ…)

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