「かわいいね、これ」









無涯が不思議そうにこっちを振り返った。
私がかわいいと指したものが何かを確認すると再び目線を元に戻す。
私は台所に立つ無涯の背中を見ながら小さく笑った。


「何がおかしい」


無涯は背中を向けたまま、なんだけどなんとなく声で不機嫌なのがわかった。


「だってこれ、母の日にもらったんでしょう?」


笑いを含んだ声で私が言うと無涯が小さく溜息を吐いた。
テーブルの上にかわいらしくちょこんをのっていたのは折り紙で作ったカーネーションと少し汚い、それでも頑張って書いたというのが目に見える字で「おにいちゃんいつもありがとう」と書かれたカード。
そして少し離れたところに見える、丁度にんじんを刻んでいるところだと思われる無涯の背中。
トントンとリズムのいい音が響く。


「何ニヤニヤしてる。気持ち悪い」


リズムが止まったかと思うと無涯は私の前の席に腰を下ろした。


「無涯は家ではお母さんなんだね」


無涯に初めて会った時にはこの威厳のある、恐ろしい人がにんじんを刻んだりしているところだなんて想像もつかなかった。
それが今ではもう見慣れたものとなってしまっているのだから不思議なものだ。









おねえちゃん」


ふと名前を呼ばれて私は声のする方に目線をやった。
私を呼んだのが無涯の妹のひとり、ちゃんだということに気付いてにっこり笑った。


「どうしたの?」


私が尋ねると子供部屋のほうからぞろぞろとあと3人の無涯の兄弟達が出てきた。


「これ、おねえちゃんにあげる」


恥ずかしそうに笑いながら小さな手で差し出されたのは折り紙で作られたカーネーション、そしてカード。
私は驚いて4人を見た。


「私にくれるの?」


にっこり笑って子供達が頷く。
私はありがとうと言って4人をぎゅっと抱きしめた。
腕の中に入りきらない4人は楽しそうに声をあげて笑った。


「無涯おにいちゃんがね、カーネーションはおねえちゃんにあげたほうがいいって言ったの」
おねえちゃんがお母さんになってくれるんだって!」


子供たちが口々に言う中、私は驚いて無涯の方を見た。
無涯は照れたようにそっぽを向いていた。


「ねぇ、本当に?」


ちゃんの問いかけに本当だよ、と笑って頭を撫でてやるとちゃんは嬉しそうに笑った。
これはプロポーズだと受け取って良かったのだろうか。
正式には本物のお姉ちゃんになるんだけどな。無涯が子供たちにそう言ったのを聞いた私はにっこり笑った。


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