馬鹿みたい。本当に馬鹿けていると思う。
こんなちっぽけな反乱を起こしたところで天人は追い払えませんぜ?
それなのになんでこんなにも必死なんだ、アンタ達は。


剣を握ることも、振るうことも、またそれが交じり合う金属音も、紅い色も、どことなくだるさを感じさせるその臭いも全部、全部当たり前のようになってしまった。
いつからだろう。俺が「人」ではなくなってしまったのは。
ただ生きていくためだけに剣を握ったのだ。
何もしなくても食べていけるのであればきっととうしてた。
1日中空を見上げながらのんびり暮らせたらどんなに良いだろう。
こんなこと土方さんに言ったら「そうでなくてもテメェは毎日そうしてるだろ」って言われそうだけど。
まだまだ足りませんぜ。それだけじゃ。
血の色を、臭いを、斬ったときの手の痺れるような感覚を忘れるにはもっとたくさんの時間が必要だ。



相手の剣をひょいと右にかわして喉元を一突き。
こうすれば人ってのは簡単に死んじまうんですぜ。
ザシュって言う音と共にまた、あの手の痺れるような感覚がした。



ドシャっという音がしてさっきまで目の前で剣を振るっていた相手が倒れた。
自分が立っている周りが紅く染まる。


騒がしかった辺りが静かになった。
きっと今回も真選組の勝利なんだろう。
そう思いながらぼんやり立っていると少し離れたところで同じく交戦していたのであろう土方さんが歩いてきた。
そして俺のほうをみるとすこしだけ目を縦に見開いた。
「お前が怪我するなんてめずらしいじゃねェか」
「え?」
土方さんが見ている左腕の方へ目をやると確かにそこから血が噴き出していて黒い隊士服をじんわりと暗褐色に染めていた。
ときどきポタリ、と紅い雫が地面へ染み込む。
「気付いてなかったのかよ」
お前の鈍感さには全く呆れるぜ、そう言った土方さんの全身も紅く染まっていたけどあれはきっと返り血だろう。
そんなことをぼんやりと考えながら土方さんのあとについて歩いた。




屯所に入るともうそこには何人かの隊士が帰っていた。
大抵のやつは血に塗れた隊服を脱いで新しいものに着替えていた。
戦いのあとのいつもの風景であった。
きっと、みんな心のどこかが麻痺してしまったんだ。きっと。俺も。




先に屯所に帰っていた山崎がふと俺のほうをみて声をかけた。
「怪我してるじゃないですか、沖田さん」
あぁ、そういやそうだった。
俺はもう一度左腕のほうに目をやった。
血が止まる気配はなかった。


これは土方さんにやられたんですぜ、と俺が言うと少し離れたところにいた土方さんが何言ってんだテメェェェ!と叫んだ。
山崎はというといつもの情景に困ったように笑い手当てしてもらってくださいね、と俺を救護室へと促した。






いつからだ、俺が人でなくなってしまったのは。






「はい、これでOK。でもあんまり無茶しないでね」
腕の止血を終えたはそう言って淋しそうに笑った。
このひとは幾度となく俺たち隊士が怪我をしているところを見ているのだろう。
あぁ、だからこそ 俺は。
























俺はゆっくりと言葉を紡いだ。



「俺はもう何人の人を斬ってきたのかわかりやせん。剣を交えることに、血を見ることにすっかり慣れすぎてしまったんだ。俺の中の「人」はもうすでにどこかへ置いてきてしまった。だから、アンタはいつまでたっても「人」でいてくだせェ」
は驚いた顔をしていたがやがて少し悲しそうな笑みをみせた。
「そんな風に、思ってたの?」
そして少し間をあけてが言った。
「大丈夫だよ。総悟くんは、温かいもん」
俺は涙がこらえきれなくなって血塗れの隊士服のままのことを強く抱きしめた。





あなたが、あなたがいてくれるから、俺は「人」でいられるんですぜ。
















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なんてダークな話なんだ。
沖田は平気な顔をして人を斬ってそうだけど心の奥ではいつもすごく不安なんじゃないかと思って書いてみたもの。
もはや夢じゃないと思う。
当初の予定は土沖でした(どうしてこうなったんだ)




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