「沖田さん」
私は小走りで前を歩く沖田さんに近づこうとする。
「沖田さんってば」
なかなか振り返ってくれない彼と横並びになったときにはもう私の呼吸は少し荒いものとなっていた。
「沖田さん歩くの速い…」
私がやっと追いついた、という思いを少し込めてそう言って彼を見上げると沖田さんはニッコリ、いやニッコリとは言えないかもしれない、表情は笑っているのだけれども何か企んでそうな顔。
そう、ニヤリ、と笑ったというのが一番しっくりくるのかもしれない。とにかくそういう表情をしたのだ。
「総悟」
その笑みを浮かべたままで彼はそれだけを口にした。
「え?」
わけがわからず、そう聞き返すと彼はまた前を向いて歩き出した。
「ちょっ…!沖田さん!」



絶対聞こえてるはずだ。そう遠い距離ではない。


「そっ、総悟!」


土方さんがいうのと同じように唇を動かしてみる。
そうすると彼は歩くのをピタリとやめた。
やっぱりそうだったのか、と私は心の中で呟く。
「沖田さんのいじわる…」
私がそう言うと彼はまた前を向いて歩き出してしまった。
「あわわ、総悟さん!」
私がそう言って慌てて呼び止めると彼は振り返った。
「だから"総悟"って言ってまさァ」
「だって隊長を呼び捨てにするだなんて…」
沖田さんが急に振り返ったことに少し驚きながらそう言うと沖田さんはこっちに近づいてきて私を引き寄せると耳元で囁いた。






だけ、特別でさァ」





その低く甘い声に私はまるでお酒を飲んだときのようにくらくらした。
はかわいいなァ」
沖田さんが今度はさっきのように何か企んでいる顔ではなく、ほんとうに、にっこり笑ったものだから私の顔の熱の温度はさらに上がってしまった。
「沖田さんのいじわる…」
私がもういちど呟いた台詞は沖田さんに届いたのかどうかはわからない。





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