月夜のマジック












俺はいつものように硬球とグローブを持って外に出た。
グローブの上で硬球を弾ませる。
いつもの川沿いに着くとグローブと硬球をそこに置き、俺はいつもと同じように走り出した。
ようやく出発点まで戻ってくると気付けば肩で大きく息をしている。
その場にドサッと座り込んでしばらくの間川を見ながら呼吸を整えていた。
自分の横に生えてる雑草、月の光りが反射して不気味に輝く月、紅潮した俺の頬をなでる優しい風。
いつもと同じ光景。
なのに、何かが違った。

「歌…?」

俺は小さく呟く。
心地良い音と歌声がする。
俺は何かに引き付けられるようにその音が聞こえてくる方に歩いていった。


「あ…」
土手に座っていた少女が顔を上げた。
美しい歌声と音色がピタリと止む。
「ゴメン…邪魔したかな」
俺は申し訳なさそうに苦笑する。
気付かれちゃったか…
できれば俺自身もうちょっとその歌を聞いていたかったんだけどな。
俺はそう思いもう1度軽く苦笑した。
その少女…月明かりに照らされたその顔はなんだか見覚えのある顔。
クラスメイトのだった。
は俺の方を見ると静かに首を横に振った。
そしては手招きして少し離れた所から動かない俺を自分の隣に座るように促した。
俺は静かにの横に腰を下ろす。
「ギター弾けるんだ」
は頷いた。
「墨蓮くんは何してたの?」
「俺?俺はねぇ…走ってた」
俺が少し戸惑いながら言うとはニッコリ笑った。
はいつも此処でギター弾いてんの?」
俺はに質問を返した。
は静かに首を横に振る。
「今日は…月が綺麗だったから…」
いつもは部屋で弾いてるんだけど、とは付け足した。
あぁ。そういや今日はいつもより月が明るいかもしれない。
の方をチラっと見たら、は月を見ていたから俺も同じように月を見上げた。
そしてもう1度に目線を移す。
いつもより少し明るい月明かりに照らされたの横顔は
どこか神秘的でいつもより大人びて見えて俺は少しドキドキさせられた。
「墨蓮くんの夢は何?」
月を見ていたはずのがふいにこっちを向くもんだから目線があっちまった。
見てたの…バレたかな…
俺は慌てて川のほうへと視線を戻す。
「俺の夢は1軍になって甲子園に行くこと!」
そう言ったのはいいもの、またと目が合ってしまったのでまた俺は慌てて視線を逸らした。
はそんな俺を見てニッコリ笑った。
「…頑張って」
ヤバイ。俺多分今顔赤いな。
ドキドキして死にそうだ。
の笑顔にこんなにもドキドキするなんて。
俺は必死に冷静を装った。
「ねぇ、もう1回歌ってよ」
「さっきの?」
俺はコクリと頷く。
はギターを手に取るともう1度、歌い始めた。
心地良い歌声が全身を取り巻く。
俺がさっきと同じように今度は歌っているの横顔を見つめていたら
も俺のほうに気付いたらしく
また目が合うと ふわり と笑った。
みるみる体温が上がっていくのを感じる。
俺は恥ずかしくなって下を向いた。


今宵俺を酔わせたのはいつもより少し明るい月と
いつもと変わらない優しい風と透き通るの歌声とギターの音色。





そして君の優しい笑顔。










どうやら俺は恋をしてしまったらしい。







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