おねがい、だれか
あたしをちゃんとつかまえていてよ。
溺れそうなあたしをしっかり繋ぎとめていて



















は今日も
















辺りはやけに静まり返っていた。 廊下を踏みしめるギシギシという音が頼りなく響く。 外はまるで快晴だった。 太陽が頓所の窓の冊子に反射して目に飛び込んでくる。 はそれを振り払うように何度か瞬きをした。 扉の前でそっと瞼を閉じて深呼吸をする。 コンコンと軽くノックをすると中から入れ、とぶっきらぼうな声。 は扉をそっと押した。 ふわり、と煙草の香りが押し寄せる。
「副長、例の書類です」
土方はペンをくるりと回してその書類を受け取り眉間にシワを寄せた。
「ご苦労」
やがてその書類を机の右側に置いてそう言った。 パサリと音を立てて先ほどが手渡した書類は他の書類に重ねられた。 土方はどんどん増えていく書類にうっとおしそうな顔をしつつも懸命に紙の上にペンを走らせていた。 そうでもしないとこの大きな机でさえも紙でいっぱいになってしまうだろう。 灰皿の上にはこんもりと山ができていた。 は失礼しましたと一礼をし部屋を出た。 途端に視界は眩しくなり、土方の煙草の香りも消えてしまった。 そのとき、の心のなかにどうと虚しさが押し寄せてきた。 が部屋に入ってから今に至るまで土方は一度もの目を見なかった。 …しょうがないよね、あたしなんてただの下っ端だし。 ふいに泣きそうになってしまった自分自身をはそうやって納得させるしかなかった。 あたしがあのひとに釣り合うぐらいに強くなったら彼はあたしを見てくれるのかしら。 は再び太陽に目を細めた。

「山崎ィィィィ!!」
今日もいつもと同じ怒鳴り声が響いた。 あれはおそらく副長の声だ。山崎のやつ今度は一体何をやらかしたんだろうとがぼんやりと考えていると息を乱した山崎がこちらへ走ってきた。 「聞いてよ!副長ったら俺のラケット折ろうとしたんだよ!」酷すぎるよ、と山崎は言いとても大切そうにラケットをにぎりしめた。 無事でよかったね、ラケット。がそう言うと山崎は頼りなく笑った。 怒られるにしろ何にしろ副長に存在を認められている山崎をうらやましいと思った。 きっと副長はあたしの名前さえ知らないだろう。そう思うと何とも言えない薄暗いものが自分のなかに流れくるのを感じた。 ぞくり、と悪寒がした。
「ほんと羨ましいよアンタが」
が思わず言うと山崎がえ?と不思議そうに目線を投げかけた。
「副長に気に入られてるアンタが」
がそういうと山崎はひどく意外そうな顔をしていた。




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多分続きます。
(04.10.20)




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