あぁ、アンタはホントに行っちゃうんだね。俺を残して。俺がどんなに背伸びしても届かない、2年の差。なんで俺をあと2年早く生んでくれなかったんだオカンの馬鹿野郎。 もうそろそろ始まってるだろう。卒業式には出てやらないよ。アンタの名前が呼ばれて、そしてアンタのことだろうから俺がいつも聞き慣れていた、嫌というほど怒られてきた低い、よく通る凛とした声で返事すんだろ?その時俺はどうしたらいい?黙って見てられるもんかよ。だから出てやらない。アンタがこの学校を出ちまえば俺はもうきっとアンタには会えない。俺が会いに行かない限りは。それとも何?これからテレビに映ることがあるであろうアンタの姿を黙って眺めときゃいいんですか。悪いけどそこまで女々しくないんでね。まさかアンタの方から会いに来てくれるとは到底思えないし。いや、もしかしたら物凄くたまーに華武高の野球部に来てくれる?いや忙しくて無理だろ。プロ野球界なんてそんなぬるいとこじゃねぇよな。んじゃ何、結局会えねぇってか?ねェ屑桐さん、俺はアンタに追いつきたくて野球頑張ったんです。めんどくさがりでサボリ魔の俺が毎日欠かさず練習に出てしかも朝練にまで出てる。朝起きるの、すっげぇ苦手で毎日のように遅刻してた俺がですよ。 アンタの背中はいつも手を伸ばせば触れることのできる場所にあったかもしれない。けど実際に手を伸ばしてみたらアンタは果てしなく遠いんだ。そして俺のこと見下ろしてる。あぁどうしたらいい?俺はどうしたらいい?
憧れ憧れ憧れ尊敬。
録センパイなんか今頃真っ赤に目ぇ腫らしてワンワン泣いてんじゃねぇの?お生憎サマ。俺にはそれは出来なさそう。 もうこのままこのままこのまま卒業卒業あれ今日で最後?
俺がグラウンドに行く頃にはいつも既にアンタはいる。そんで決まって俺を真っ直ぐ睨みつけて「遅い」って言うんだ。
憧れ憧れ憧れ尊敬。
あれ最後?今日で最後?どうしたらいい?なぁ俺どうしたらいい?
みやなぎ。あれ誰か俺を呼んでる?もしかして屑桐さん?なんて気のせいか。どこまで都合良くできてんだろ俺の脳みそ。笑っちゃうねホント。アハハハハ。
聞いているのか、御柳。
あれほんと?今度はほんと?聞き間違えるはずがない、その声だ。俺がずっと聞きたかったアンタの。これからも努力を怠らずに練習頑張れよって、最後の言葉もやっぱりそうか。アンタ正真正銘の野球バカだよ。でも俺はそんなアンタだからこそ惹かれたんだ。
尊敬尊敬尊敬憧れ?
そうだそうだ。俺はこんな風にアンタに笑いかけてほしかったんだ。仏頂面のいつも笑わないアンタだからこそそう思ったんだ。あれ?もしかして今笑った?もしかして今笑ったの? 次はお前が野球部を支えろ。御柳、お前ならできるはずだ。
振り向きざまに微笑んでみた。ニコリ。あぁもう。大丈夫大丈夫大丈夫。涙は出ねぇ。





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