「やっぱりここにいた」






墨蓮は顔だけそちらのほうに向けたが、またすぐに元の位置に戻してしまった。
「……何本目だよ…」
「……うるせぇ」
ぶっきらぼうにそう言った墨蓮の背後で御柳が小さく溜息をついた。
墨蓮は相変わらずフェンスに体を預けて立っていた。
沈黙が続く。
墨蓮はやっぱり御柳に背を向けたままであったが御柳はその場所を動かずに立っていた。
墨蓮が吐いた白い煙が墨蓮に言わせればムカつくぐらい晴れた青空へと昇っていった。
「吸い過ぎ…なんじゃねぇの」
御柳が独特の気の抜けた声で言った。
「…やらねェよ」
そう言って墨蓮がまた煙を吐き出す。
「ハッ。いらねェよ」
吐き捨てるように御柳が言った。










空は 青い。










「最近吸わねぇのな」
その金色の髪が光りを浴びて更に輝いていた。
「何が」
その風に靡く後ろ髪を見つめながら御柳が言った。


「煙草」


墨蓮がやっと体ごと御柳の方を向いた。
御柳は少し返答に困ったようにポリ、と後髪を掻いた。
「体に悪ィじゃん」
「前までそんな事気にしてなかったクセに」
間髪を入れずに、いや正確には御柳がそう言い終える前に墨蓮が冷たく言った。
「そうだよな。一軍だもんな」
墨蓮はハッ、と自嘲気味に笑い銀色のフェンスに先程まで吸っていた煙草をぐっと押さえ付けた。
そして指の力を抜くと同時にそれは重力に従って下へと落下していった。
「またそんな事言う」
御柳が眉間にシワを寄せ、言った。
「そりゃどうも」
墨蓮が感情など篭ってもいない声でそう言ってその場に腰をおろすと御柳もその隣に座った。
フェンスが再びガシャンと音を立てる。
少なくとも御柳は何故墨蓮がこんなにも機嫌が悪いかは解っているつもりだった。
「そんなに3軍になったのが悔しいか」
一瞬、ほんの一瞬だけ墨蓮の顔つきが更に険しくなったのを御柳は見逃さなかった。
「……うっせぇよ」
ボソリと墨蓮が言った。
「何、さっきからヤツ当たりかよ」
みっともねぇな・御柳は挑発するように言って口の端を笑みの形に吊り上げた。
墨蓮は思わずカッとなってすぐ隣に居た御柳の胸倉を掴んだがやがて手を離した。
「何、殴らねぇんだ?」
掴まれた襟元のシワを元に戻しながら言って御柳は意味ありげに笑った。
「何しにきたんだよお前…。からかいに来たなら帰れ」
墨蓮は両手で顔を覆うようにして下を向いていた。
「これ以上お前がここにいて何か言うようならば俺はお前を殴るかもしれねぇ」
御柳は何も言わずにただ口元を笑みの形にしていた。
御柳がこの場所を退く気が無いことを悟った墨蓮はハァ、と溜息をついた。
「頑張ってるのになぁ……」
溜息と一緒に出た本音は風に乗って消えていった。
その呟きが御柳に聞こえていたのかどうかはわからないがとにかく2人とも何も言わなかった。
すると御柳が急に立ち上がった。
墨蓮はその気配を感じて目線だけチラっと上に移した。
「俺も努力したの」
御柳がそう言って笑う。
「は?」
墨蓮は思わずそう言って顔を上げて太陽の眩しさに目を細めた。
「禁煙」
御柳の口からは滅多に出ない2文字に墨蓮はなるほど・と頷いた。
いつだったか御柳は急に煙草を吸わなくなって、その変わりにガムを噛み始めた。
「ま、せいぜい頑張るこったな」
御柳は今やトレードマークにもなった風船ガムを器用に膨らますと墨蓮に背を向け屋上を去っていった。
「……素直じゃねぇなぁ」
鈍い音を立てて閉まるドアに向かって聞こえないように小さく呟いた。
「…って俺もか」
そして困ったように笑って照れ隠しのように髪の毛に触れた。
今日が駄目だったんなら明日からまた頑張ればいい。
「よし」
墨蓮はゆっくり立ち上がると満足気にそう言って太陽の眩しさに目を細めて青空を見上げた。












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なんか微妙な感じに仕上げたかった…が
なんだろうこれ…。


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